039370 ランダム
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花ごよみ

花ごよみ

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龍の珠

花入藍珠


人身御供を伴った 村人の一行は
半日かかって 山を登ってゆきました

やがて
陽が 山の端に隠れる頃
綾乃が ひとり 置き去られたのは
龍神様を奉る祠(ほこら)よりも さらに奥
暗い水をたたえた淵にせり出した 大きな岩の上でした

この淵は『龍の住処』と恐れられ
祭りの日 娘が連れて来られる時以外は
誰一人として 足を踏み入れる事の無い場所でした

村人達が去った直後の静けさには
さすがの綾乃も 多少心許なくなったものですが
待てども 待てども
一向に 何の気配も感じられないとあっては
持ち前の気丈さと 好奇心とが顔を出すのは
無理からぬ事でありました

綾乃は 岩から降りて
淵のぐるりを ゆっくりと歩き始めました
しかし 辺りの景色は 薄暗闇に被われ
見えるものといえば 対岸に仄白く浮かぶ
最初に自分が座っていた岩ぐらいのものでした

『・・・?』
綾乃は じっと 目を凝らしました

せり出した岩と水面の ちょうど中程の岩肌に
人が馬に乗っても通れるほどの 真っ暗な穴が
まるで 獲物を待ち受けるかのように 口を開けていたのです

『あれは…もしや…』

水玉ライン

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